夏月の海に囁く呪文

夏月の海に囁く呪文 (電撃文庫 (1178))

夏月の海に囁く呪文 (電撃文庫 (1178))

ある離島、その海にある島民に崇められている岩に呪文を唱えると、海神が本来の居場所に連れていってくれるという。そんな呪文をめぐる、それぞれがつながった、4つのせつない短編。例えば第一話「僕は能面」から。
僕はどこかへ行きたかった。
僕はどこへも行けなかった。
僕の居場所はどこにもなくて、でも独りきりは寂しくて。
──僕は気付けば、能面を被っていた。
能面とは、本来の表情にかかわらず、意図した表情を見せること。それは大人にとっては当たり前のことだが、それに傷つく人がいる。第二話の主人公は、人は生まれ落ちた時が100で、大人になった瞬間に0になるのだと考える。そんな思いなのに、表面的にはさわやかだったり明るく活発だったりで、悩んでいるようには見えない。そういう人々が、現在の居場所のままに新しい自分を見つけていくストーリー。
僕には面白かったが、乗り越える前の人、またはそういう悩みの経験のない人が読んだ場合、共感できない気がする。ということで、対象年齢ちょっと高め。電撃なのにイラストがないのもその辺意識してのことでしょう。