“文学少女”と月花を孕く水妖 / 野村美月

“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫)

“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫)

情けないわ。わたし、153ページの山梔子風味が読めなかったのよ。同じ153ページに、それから71ページにも、しっかりふりがな付きで載っているのに。山梔子はくちなしだけど、さんししと読めば漢方薬なの。心の煩悶や、胸の痛みにも、効果があると言われているわ。「外科室」の二人は、一瞬擦れ違っただけの夢の時間を、忘れず胸に秘め続け、お互いに相手が自分を知っているとは思いもせず、自ら招いた死の間際に、その愛を知るの。その切なさと儚さ…… よく冷えた山梔子のお酒は、そういう意味も含めて味わうといいわ。そういえば、わたしも山梔子を育てていたわ。近くの山に散歩に行った時に、野生の山梔子が、きれいな花を咲かせ、芳香を漂わせていたの。とってもかわいかったから、その次に行った時に、種をもらってきたの。立派に育ったわ。でも、三ヶ月とすこし、水をあげなかっただけで、枯れてしまったの…… わたし、何を書いているのかしら。おなかがすいたわ。